●2012/2/1 コルカタの市場に行く

朝早く目が覚めるが、ホットシャワーが出ないのでしばらくあれこれ機器を触ってみる。なんとも埒が明かないので諦めて水で浴びた。さすがにコルカタもこの時期、少しひんやりする。寒波が襲来している日本から出てきた身としては十分暖かく、昨日の夜は半袖で過ごしたのだが、インド人はこのときとばかりに長袖シャツやジャンバーのようなものを着込んでいた。寒さへの耐性がないのか、おしゃれを楽しみたいのかわからないが、半袖の自分がなんとなく浮いていた。夜は一応毛布をかぶって寝た。おそらく今が一番寒い時期なのだろう。日中は半袖Tシャツで十分な気候なのだが。

6時半ごろ、スタッフを起こして玄関の鍵を開けてもらい、市場に行ってみる。以前のように牛肉売り場で牛の頭を叩き割っているのをしばらく眺める。前は気がつかなかったが、牛の頭は皮付きのまま運ばれるらしい。目をつぶった牛の頭が地面にいくつも転がっていて、店の従業員が地べたに座り込んで、なたのような物で頭をたたき、顔の周りについた肉を剥ぎ取り、脳みそを出している。脳みそはソフトボール大の大きさほどで、青いバケツに入れていく。

牛肉売り場の隣はマトン(インドではマトンとはヤギの肉を指す)と鶏肉の混合売り場だ。ヤギはここで屠られるようだ。次々とヤギの集団がやってきては、陳列台兼作業台の下のスペースに入れられていく。たまに羊も混じっている。なるほど、各売り場のこの高さ1.2メートルほどの台の下は生体のストックヤードになっているらしい。一頭ずつ通路に引き出されては床に体を無理やり押さえつけられ、刃渡り20cmほどのナイフでのどを切られる。一頭、また一頭と体を並べられながらのどを切られ、6,7頭が屠られるころには最初のヤギは動かなくなっている。続いて前足の間接を落とされ、首もはねられる。後ろ足の間接は切り落とさずに間接周りの肉をはいで腱を出す。この腱はとても丈夫らしく、この左右両方の腱同士を結んで、後ろ足で輪っかを作る。そして上からぶら下げられている鉤状の金具にひっかけてヤギの体をぶら下げるのだ。後ろ脚、お尻のほうから下に向かって、ちょっと分厚い服を脱がすように皮をむいていく。毛皮を剥くと、ヤギの体は一回り小さくなった。

 

血と肉のむっとするような匂いが立ち込める中で、自分は想像していた。今でこそこうやって水道を自由に使える屋内のコンクリートの床の上で作業しているが、これはごく近年のことだ。つい最近まで野っ原のようなところで屠殺のような作業は行われてきたはずだ。ヤギなどを屠って解体し、肉を分けていく。大地も草も血だらけで、内臓の一部や、なんだか分からない肉の破片がそこらじゅうに散らばり、それを求めて犬やカラスや獣たちが集まって周りをうろついている。水もそれほど十分にはないので、人々は血だらけになって、肉の破片を体にまといながら作業していただろう。見ようによっては凄惨な現場だったに違いない。肉食をしないアーリアの人たちはそれを見てどう感じたのだろうか。恐らくそこに何か邪悪な、穢れたものを見い出したのではないだろうか。。。

 

市場の中で屠殺されるのを待つ山羊たち
市場の中で屠殺されるのを待つ山羊たち

鶏もここで絞められる。首に刃を入れて血を抜きながら、背中の羽根の一部といわゆる手羽の一部の羽根を抜く。これらは再利用されるらしく、生えている部位によって丁寧に分けられていた。それから首と足を落とし、残りの羽根は皮ごとペロッと剥かれるような感じだった。


インドでは街中であまり猫を見ることはないが、ここには棲みついているようで、子猫を含めて6,7匹は見かけた。ここでは食べ物に困らないだろうと思いきや、どちらかというと痩せこけた猫ばっかりだ。それでも子猫を産めるだけの元気は何とかあるのだろう。ちなみにこの猫たちは、少し離れた魚売り場からは締め出されているらしく、まったく見かけなかった。


鶏の生体売り場も覗く。こちらは生きたままの鶏が直径1,2m程度の竹で編んだ平たい籠に入れられて売られている。見ると中にひよこから少し成長したくらいのまだ幼いものもいる。雌鶏が多いのには何かわけがあるのだろうか。見るとアヒルや鴨などもいた。ここは1羽ずつ小売しているのだろうか?市場の外で購入する人は商売用なのか、例の竹籠を満載したトラックが市場の外で荷を降ろし、そこで取引が行われていた。男たちが自転車に何十羽と吊るして朝もやに消えていく姿はすっかりこの辺りの風物詩になっているようだ。

鶏を自転車に結わえて朝のコルカタの街に消えていく男たち

 

その後近くをぶらぶらした。今回ガイドブックを持ってきてなかったので、地図や中古のガイドブックを探して本屋を覗いたり、携帯用のSIMカードを買いに行ったりして過ごす。昼からEsplanadeの北方面に向かってみた。google mapを見ていると、この辺にコンピューターショップが集まっているようだったのだ。行ってみたが、特にお店らしきものも見当たらず、BBD BAGまでぐるっと回って帰ってくる。インドのほかの町では決してそんなことはないのだが、コルカタに来るとなぜか食欲が湧く。その辺のものを何度も買って食べながら歩いてしまうので、ちょっとセーブしないといけないようだ

コルカタにある自転車屋 最近はこんな子供向けの自転車まで売っている
コルカタにある自転車屋 最近はこんな子供向けの自転車まで売っている

帰りに博物館脇からサダルストリートに入ったところで、なんともいえないシーンに出会った。博物館横の歩道で生活している女と子供たちがいるのだが、急に一斉に走り出して、向かいのリットンホテルのゲート付近に並んでちょこんと座り始めたのだ。「何かある」と思い、立ち止まって見ていると、しばらくして体格のがっちりした東洋系の若い男が一人ホテルから出てきた。門の辺りを出たり入ったりして、ホテルの中をうかがっている。そのうちに今度はでっぷり肥えた巨体を車椅子に乗せて、先ほどの若い男よりは幾分年上と思われる東洋系の男が出てきた。二人とも剃髪している。車椅子の男の指示で、若い男が座っている路上生活者たち十数人にお金を配り始める。いくらかはわからないが、紙幣であることは間違いない。


お金をもらうと子供たちは嬉しくて、思わず走り出す。女たちは満面の笑みだ。正直、こういう女たちのこんな顔を今まで見たことがなかった。物乞いの女たちは、自分のような外国からの旅行者にはいつも眉尻を下げていかにも悲しげな表情を作る。自分たちもそれが演技だと知っている。もちろん、物乞いをするとき以外、、、路上で寝起きしていたり、物乞いの合間にボーっとしていたり、子供を叱ったりしている時など、彼女たちの素の表情を見るときもある。しかしこんなに心から喜んでいる表情を見たのは初めてだった。「実弾」の威力を思い知らされた気がした。