2012/2/13 ●チリカ湖畔を散策

朝、プリー方面のバスに乗り込んだ。宿泊しているSatpadaから10kmほどプリー方面に戻ったところにあるPanasapadaという小さな村で下車した。この辺りから眺めるチリカ湖が美しい。プリーからバスで来る途中に眺めた景色が忘れられず、ここまで戻ってきたのだ。バス道から湿地帯が続き、その向こうに湖が見える。柔らかい湿地に踏み跡のようなものがあるので、それを辿って湖の岸まで行ってみた。無数の牛たちの足跡が続いている。牛たちが草を食みに辿る道が踏み固められてトレイルのようになったようだ。

人が歩けそうなほどの遠浅の湖面がずっと続いている。純粋な淡水湖ではなく海水が流入しているのだから、水もしょっぱいはずだと思うと、汚いと分かっていても衝動がどうしても抑えられず、水を少し舐めてみる。海水ほどではないがやはり少ししょっぱい。塩分が含まれているのに、淡水にいそうな巻貝がたくさんいて動いている。めだかのような小魚もいた。

日差しが気持ちいいので、湖岸を歩き回った後にしばらく座って本を読んだり、水鳥を眺めたりして時間を過ごす。湖なのにうっすらと潮の香りも漂ってきた。

チリカ湖は水鳥の生息地として有名
チリカ湖は水鳥の生息地として有名

やがて、元来たバス道のある集落に戻った。すぐにバスを捕まえるのもなんなので、しばらくSatpada方面に向かって歩く。道沿いに大きなゴムの木のような木が頻繁に生えている。葉っぱがそっくりだが、日本の観葉植物として売られているゴムの木のイメージからかけ離れた野生的で大きな木だ。幹肌もなんだか荒々しい。「これはゴムの木に見えるが、そうではない、きっと別種だ」と自分に言い聞かせてきたが、本で調べるとやはりインドゴムノキらしい。赤い実もつけている。光沢のあるツルッとした葉がわっさわっさと茂っている。うーん、ところ変わればずいぶん樹姿もずいぶん変わるものだ、と改めて思う。

途中、少し歩き疲れたので道の脇の大きなインドボダイジュの木陰に座って、先ほど集落で買ったバナナを食べていると、牛の一団がやってきた。バナナの皮を牛の足元に投げてやると、ほかの牛たちが次々と自分の元にやって来て、持っていたバナナごと奪われそうになった。おとなしい牛に襲われそうになるなんて、と思いながら、今日はなんだか不思議な日だな、と思った。

朝、宿泊している宿を出て散歩がてらフェリーの発着場まで歩いていると、向こうから一匹の犬が自分を見つけるや否や、尻尾を振って駆け寄ってくる。えさをねだるようにこちらをじっと見ているので、ん?お前の主人になったことはないぞ?と思いながら頭を一度なでてやると、もう主人の後をついて歩くように、どこまでも追いかけてくるのだ。

昨夜、宿にあるレストランから部屋に食事を運んでもらったのだが、ご飯が半分ほど余ったので、部屋のバルコニーから少し離れた地面の上に置いてみた。ここは宿の建物の裏手になり、レストランの残飯を目当てに何匹かの犬や猫がうろうろしているのを知っていたので、自分も同じようにあげたのだった。見ているとその後やってきた犬が食べていたが、今朝の犬とは別の犬だったはずだ。

またこの日、バルコニーに座ってポテトチップスを食べていると、カラスがやたらと集まって地面にとまり、こちらをじっと見ている。今まで一度もカラスに餌なんてやったことないし、カラスも人間を恐れているはずなのに、怖いほど寄って来る。中にはバルコニーの手すりにとまって、明らかにえさを投げるのをねだっているかのようだった。

ここら辺の動物は互いにえさの情報交換でもしていて、「あいつはえさをくれるらしいぞ」なんて噂しあってるのかな?などと思いながら、また歩き出した。のどかな風景が続く。いい加減少し歩き疲れた。そろそろバスが来てくれたらな、手を上げて捕まえるのに、と思い始めた頃に不思議な光景を見た。

歩いている前方の道の脇の草原に水鳥がたくさん集まっている。自分が近づいてもなかなか飛び立とうとしない。なにか小高く盛り上がった山のようなものの周りにいる。その中の数羽が時々、その山に近づいてなにやら突いている。歩いて近づくに連れ、そのものの正体が分かった。1等の水牛の死体だった。顔は骨だけとなり、角で水牛と分かる。盛り上がっているのは腹の部分だった。

そこへ一頭の水牛がそばを通りかかった。いったん水鳥たちのそばを通った後、Uターンして今度は水鳥たちを追い払うかのように、その水牛の死体に走り寄ってきたのだ。なおも見ていると、死体の後方にある、死体から出た体液なのだろうか、土の上にたまった液体をぺろっと舌で数回舐める。そして徐々に歩いて近づく自分のほうに一瞬振り返った。目に力が入っており、少し怒りを含んだ表情のように思えた。それから死体の周りをまわりながら、やたらとくんくんと匂いを嗅ぎはじめた。

水牛に仲間の死を悼む気持ちがあるのだろうか。それとも草食だと思っていたが、死肉を漁るような習性があるのだろうか?じっと見ていたら風で死肉の匂いがもわっと体に吹き付けられ、あわてて風下から逃れる。

もう少し見ていたかったが、ちょうどバスが向こうからやってきたのであわてて手を上げた。運よくバスが拾え、宿のあるSatpadaへ帰ることができた。

木陰で昼寝をする水牛たち
木陰で昼寝をする水牛たち