2012/2/8 ●オディーシャの美しい農村

まだ体調が悪く、昨日の晩も下痢に苦しんだ。これまでよくお世話になってきた正露丸が効かない。飲むと胃腸が焼けるような感覚になるが、下痢は止まらない。まあ宿便が取れて少しは痩せるだろう、と自分を慰めるのだが、トイレが近いので困ったものだ。

朝起きてまだ不安があったが、荷物をまとめて移動を開始することにする。オリッサ州へ南下するのだ。このDighaというところは西ベンガル州最南端で隣のオリッサ州は目と鼻の先だ。しかし州をまたぐバスがあるかといえばそうではなく、10分ほどローカルバスに乗って州境まで行き、そこで別のバスに乗り換えるのだという。

インドという国はこういう融通の利かないところがある。州内の運輸権はそれぞれの州が管轄しているということなのか、バスやリクシャ、タクシーなどは州内だけの運行が原則のようだ。もちろん州をまたぐInterstate busというのもあるが、恐らく州同士の取り決めに従って認可を受けた特定のバスだけらしい。以前、ウッタル・プラデーシュ州からビハール州に移動するとき、州境でバスを降ろされ、待っていた乗り合いのジープのようなものに乗せられて10分ほど走り、ビハール州に入ってからまたそこで待っていた別のバスに乗せかえられたことがあった。手ぶらの乗客はまだしも、たくさんの荷物を抱えた乗客などはその都度荷物をジープの屋根に縛り付けたり外したりと大変だった。乗客の利便性より四角四面の官僚主義が優先なのだ。

今回も州境でおろされてバスの出発まで30分ほど待ち、ようやく出発。しかしその後しばらくは、すばらしい農村風景の連続だった。コルカタからDighaまで来る途中は田植えがまだ始まっていなかったが、この辺り(州境付近)ではもうすでに始まっていて多くの田んぼには水が張られ、植えられたばかりの若い苗で埋められている。道路わきに断続的に点在するため池からたんぼにポンプで水を送っている農夫がいる。家族何人かで並んで腰をかがめて田植えをしている農家の姿も見れた。女子学生が連なって自転車で学校に向かう様子もここでは普通らしい。田んぼが何枚も続くさまは、あぜ道にバナナや椰子の木がなければ日本の水田風景と似ているなあ、と思ったり、窓から入ってくる水の匂いと水を吸った緑の匂いにむせたりと、心を奪われるような瞬間の連続だった。「ここで降りたい」と思うような場所がいくつもあった。

水の豊かな地は、すなわち豊かな地だと思う。人の心にも余裕が生まれ、心の豊かな地にもなると思う。インドには不毛の地とも思えるような固く痩せた地を掘り起こしてはサトウキビや豆やとうもろこしを植えて生活の糧にしている人たちがたくさんいる。カラカラの土地から絞るように養分を吸い上げて育つこれらの作物に頼らざるを得ない人々に比べると、この辺りの人々はきっと幸せに違いない。

せっかく「定本・インド花綴り」という本を持ってきたので、いろんな木々や植物を探しながら歩きたいな、と思わせるようなところだった。田舎なので宿泊できる場所がなさそうだ。今朝移動を始めたばかりなのにこんなに早く途中下車していいものか、などと逡巡しているうちに、風景は都市のものに変わっていってしまった。