インドの観光白書2010:日本人のインド渡航に大きな変化



→参照資料:インド観光省の統計より INDIA TOURISM STATISTICS 2010(PDFファイル)

先日、昨秋に公表されたインド観光省の観光白書にようやく目を通すことができた。近年のインドブームを反映してか、最近はインドも観光客の誘致に力を入れ始めている。国内の観光産業の現状分析なども為され、Incredible India!のような観光政策を実施したりもしている。インドは2011年現在、世界遺産を28も抱え、イギリスとともに世界第7位の世界遺産数を誇っているのだ。広大な国土には歴史的な建造物だけでなく、砂漠もジャングルもデカン高原もチベット高原もヒマラヤも大河も抱え、多様な自然と多様な民族・文化がちゃんと独自性を保っている。それらを観光資源として見るなら世界一といって過言でもないと思うのだが、実際は驚き呆れるほど未開発のままだ。2010年にインドに訪れた外国人の数は、577万5692人、世界の国別ランキングでは40位にランクする(トップはフランス)。外国からの観光客が少ないと呼び込みに躍起になっている日本でさえ29位なのだから、いかにインドが潜在力を秘めたままの「眠れる象」であるかが分かる。

 

●ムンバイショックを乗り越えた2010年
グラフはインドへの外国人の渡航者数の推移だ。観光客だけでなく、ビジネスや在外インド人の里帰りなども含む。計画経済を進めて長く低迷していた1980年代、改革を進めて外貨保有量が増加した90年代(特に後半)、完全に経済が離陸した2000年代と、時代に合わせてインドに流入する外国人の数も大きく変化している。そんな上り調子のインドに頭から冷や水を浴びせたのが2008年11月末にムンバイで起きた同時多発テロ事件だった。駅や高級レストラン、映画館、ユダヤ教徒の拠点、ハバドハウスなどのほか、有名なタージマハルホテルの立てこもりでは鎮圧までに3日間要し、その間に世界に映像が発信されたことから、その後1年に渡ってインドへの外国人の渡航者数は低迷した。ムンバイのテロ事件から1年たった2009年末ごろより、改善が見られるようになり、2010年はその反動もあってか空前の渡航者数を記録することになったようだ。

 

さらに速報値ではあるが、インド観光省は2011年の渡航者数が前年比8.9%増の年間629万人に達したと先日発表し、勢いの強さを印象付けた。インドへの渡航者数が600万人台に達したのは、恐らく初めてのことだろう。

 

●インドへの渡航者が多い国
表は2010年のインドへの渡航者の国籍をランキングしたものだ。インド観光省では従来から毎年、観光白書をネット上で公表しているので、興味ある人は過去のデータも見ていくとよい。伝統的に、アメリカ、イギリスが上位を占め、カナダ、バングラデシュやスリランカなどの近隣諸国とフランス、ドイツなどのヨーロッパ勢も常にTOP 10の真ん中あたりを占めている。日本は年によって6位~8位をキープしてきたが、最近はマレーシアやオーストラリアに抜かれて10位に甘んじている。近年の特徴として、印僑、NRI(Non Resident Indian)が多く住むマレーシアやシンガポールのほか、中国や韓国からのインド渡航者の増加も目覚ましいものがある。2010年の日本人のインド渡航者は168,019人、ムンバイショックで落ち込んだ前年の34.7%増を記録し、毎月平均1万人以上の日本人がインドを訪れているのだ。

 

●渡航の季節偏差
インドの観光シーズンは乾季にあたる秋~春にかけてとよく言われる。5月以降は酷暑期に続いて雨季に入るので観光には不向きだと言われるが、統計でみると、乾季(9月~3月)と酷暑期・雨季(4月~9月)の渡航者の比率は6:4程度と、言われているほどには差がない。ただ、この渡航者にはビジネスや周辺国からの出稼ぎも含まれるので、純粋に観光客だけの数字ではない。

 

●渡航者の性差
外国からの観光客にとってインドはややハードルが高い国なのかもしれない。従来からインドへの渡航者は男性に比べて女性の割合が低い。女性にとっては未だ「渡航に躊躇する国」なのだ。欧米諸国からの渡航者は60:40くらいの比率で男性が少し多い。一方日本は従来から65:35くらいの割合で、欧米諸国の渡航者に比べると女性の割合がわずかに低い傾向があった。それが2010年にはなんと81:19にまで広がり、劇的な変化があった。

●渡航目的
インド観光省の観光白書では、渡航者の渡航目的を1.商用、2.観光、3.知人及び親戚・家族訪問(里帰り)、4.医療受診、5.その他の5項目に分けて、国別にその割合を公表している。驚くのはこれまで3割ほどで推移していた日本人の商用目的での渡航が2010年に初めて5割を超えたことだ(56.9%)。もはやインドに渡航する日本人の半分以上はビジネス目的であり、観光客は少数派になってしまったのだ。日本と競うように中国、台湾、韓国などでも商用目的での渡航者の割合が非常に高い。

日本の企業では、赴任先としてのインドは人気がないのだという。短期の出張でさえ難色を示す社員が少なからずいると言う。他の国に比べてインド赴任だけは手当を増額したり、任期を短くするなどして社員に打診するのだと聞いたことがある。男性社員でさえ尻込みするくらいなのだから、女性社員を積極的にインドに送り出す企業はまだ少ないのではないだろうか。つまり、日本人の商用目的での渡航の増加と、渡航者の男性の割合の大幅な増加には、こういった背景があってのことではないかと思うのだ。

日本、中国、韓国、台湾の極東勢が競り合っている
日本、中国、韓国、台湾の極東勢が競り合っている

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コメント: 1
  • #1

    名無しさん (日曜日, 23 8月 2015 14:59)

    なるほど‼︎