2012年

9月

22日

インドのアライバルビザは機能しているか

2010年1月より、インドはいくつかの国を対象に、観光でインドを訪れる人向けにVoA(Visa on Arrival)制度を導入している。これはインドを観光で訪れる際に、事前に大使館や領事館に出向いて観光ビザを取得する手間を省き、インド入国時に空港で観光ビザを発給する制度で、観光客の増加につなげる目的で導入された制度だ。

→在日インド大使館の入国時観光ビザ発給プログラムに関する紹介


●インドのVoA制度の経緯


2010年1月・・・フィンランド、日本、ニュージーランド、シンガポール、ルクセンブルグの観光客に適用


2011年1月・・・フィリピン、カンボジア、ベトナム、ラオスの観光客にも適用開始


2011年2月・・・インドネシア、ミャンマーの観光客にも適用開始

今年に入り、インド外務省はさらにフランス、ドイツ、ロシアからの観光客に対してVoAの適用を検討中であることを公表したが、未だ実施には至っていないようだ。さらにスペインやマルタ共和国を含むいくつかの国々の名前も取り沙汰されている。どこまで本気か分からないが、今後3~4年で外国からの観光客数を現在の2倍にまで押し上げたい、という政府の思惑があるとTimes of Indiaは報じている。

→到着時ビザ、さらに拡大へ

しかしこのVoA、導入当初から決して外国人観光客から好評を博している制度だとは言い難い。例を上げると日本では事前に取得する観光ビザは1935円(25ドル程度)の費用で済むのに対し、VoA制度によるアライバル(到着時)ビザには60ドルの費用を払わないといけないし、有効滞在期間は30日以内と、長期旅行者には不向きな制度だ。

 

そもそも外国人旅行者の間には、硬直的で尊大、横柄、気まぐれなインドの官僚主義に対する拭いがたい不信感があり、ビザを持たずにインドへ向かうことに躊躇する向きは多い。ネット上ではアライバルビザをもらえるものと思ってインドに飛んだものの、入国時にもらえずにそのまま帰国を余儀なくされた、という噂さえまことしやかに流れている。

VoAの適用については、セキュリティの問題、2国間の外交関係などを考慮して検討されるのだろうが、現在適用されている11カ国のうち、日本(年間の国別訪印者数10位)とシンガポール(同13位)を除いてはとても訪印者数の多い国々とは言えない。ルクセンブルグやカンボジア、ラオスに至っては観光省の統計(India Tourism Statistics)でもそれぞれ単独での訪印者数すら紹介されておらず、「その他」の範疇に含まれている国々だ。

 

●VoA適用各国の訪印者数(2010年度)India Tourism Statistics 2010より抜粋

  訪印者数
日本 168019

シンガポール

107487

ニュージーランド

37024

インドネシア

26171

フィリピン

24534

フィンランド

24089

ミャンマー

14719

ベトナム

7458

ルクセンブルグ

不明

カンボジア

不明

ラオス

不明

 

そして→インド観光省が毎月公表しているVoAの発給状況を見ていくと、やはり制度の導入当初からその意義に疑問符の付く状況が続いている。元々訪印者数の少ないルクセンブルグやカンボジア、ベトナム、ミャンマーなどは毎月1ケタ(10件以下)の発給にとどまっており、ラオスに至っては1件もアライバルビザの発給がないという月も珍しくない。

マイナー国のVoA発給件数の推移
マイナー国のVoA発給件数の推移

インドに限らず、入国管理は治安上のリスクを水際で確実に食い止めながら、大量の入国者をさばくために速やかかつスムーズに行わなければならないはずだ。素人の目から見ても、この程度の発給状況であれば、これらの国々へのVoA発給は止めた方がよいのではないかと思ってしまう。むしろ入国管理の現場に余計な混乱をもたらしているだけのように思えるからだ。

一方、日本やニュージーランド、シンガポールなどは毎月100~300件ほどのアライバルビザが発給されているが、それでも各国の訪印者数からみれば微々たる割合に留まる。先に挙げた在日インド大使館のサイトでも、「入国時観光ビザ発給プログラムは、上記5カ国の国籍を持ち、なんらかの理由で最寄りのインド大使館・総領事部でのビザ申請が難しい方を対象としております。申請可能な方は、最寄りのインド大使館・総領事部へビザの申請を行うようお願い申し上げます。」と呼びかけている。何か気軽に利用する類のビザではないと言わんばかりのニュアンスだ。

アライバルビザはあくまで観光及び知人・親類訪問目的での渡航にのみ限定して発給されるものなので、商用や医療など他の目的を含めた全訪印者数と比較して見るのは乱暴であることは認めないといけない。しかし訪印者の大半が観光目的であることは概ね疑いがない(日本については商用も多いが、短期出張で観光ビザを利用するビジネスマンもいるらしい)し、その中でアライバルビザの比率がわずか数%しか占めていない現状は、少なくとも「観光客を倍増させる」というインド政府の趣旨に、VoA制度が少しも寄与していないと見るのが妥当だ。

そうした中でこの8月、日本人観光客のアライバルビザ発給数が劇的に増加し、過去最高の693件に達したことが、先日発表されたインド観光省のレポートで明らかになった。このおかげで8月末時点で今年の日本人観光客に対するアライバルビザの発給累計が2565件に達し、すでに昨年1年間の累計2344件を上回ったことになる。

この背景にあるのは、日本のインドビザ申請センターで事前に取得できる観光ビザの申請方法が、今春から変更されたことにあるようだ。これまでのビザセンターを訪れて申請用紙に必要事項を記入し、申請料やパスポートともに窓口に提出する、といった申請方式から、事前にインターネット上のビザセンターのサイトにてオンラインで必要事項を入力し、申請日が割り振られる方式に変更されたのだ。申請者は入力した必要事項をプリンターで出力し、オンラインで選択した申請日にその用紙と申請料、パスポートを持参してビザセンターの窓口に提出することになっている。夏休みに申請数が増加したためか、選択できる申請日がどんどん先延ばしされて、オンライン入力から1カ月以上先でないと申請できないという事態が相次いだのだ。航空券を手配し、又はツアーを予約したものの、ビザ取得が間に合わず、仕方なくアライバルビザに賭けてみる、という旅行者が急増したことが、この8月の日本人観光客へのアライバルビザ発給数の劇的増加につながっている可能性が高い。

調べてみると、ニュージーランドでも今年の5月30日よりオンライン申請が導入されており、全ての観光ビザ申請者はこのオンライン申請が義務付けられている。インターネットの普及状況は国によって差があることもあり、現時点ではシンガポールやフィリピン、アメリカでさえこのオンライン申請は導入されていない。少なくとも日本では、特定の日に申請が集中しないように、オンライン申請によって申請数の調整が為されている。

そうするとこれは一体、誰のための制度だろうか。

先に挙げた在日インド大使館のサイトに「入国時観光ビザ発給プログラムは、なんらかの理由で最寄りのインド大使館・総領事部でのビザ申請が難しい方を対象としております。申請可能な方は、最寄りのインド大使館・総領事部へビザの申請を行うようお願い申し上げます。」という一文にも顕著に表れている通り、現状のVoA制度は、インド本国で意図された『ビザ取得プロセスの簡便化によって観光客の増加に資する』という趣旨から外れ、むしろ増加するビザ申請に対し、対処しきれなくなる各国のインド大使館・領事館、及びビザ申請業務の委託を受けた機関のための緩衝的な制度、もしくは緊急避難的な措置というものに変容しているのではないか。

→インドの観光白書2010-日本人のインド渡航に大きな変化 で紹介したように、インドに渡航する外国人は増加傾向にある。しかしインド政府の観光振興策がどこまで効果を発揮し、インドへの渡航者数の増加と結びついているのかということについては、慎重に見ていく必要がある。彼らの施策とは全く関係のない環境要因で好況を呈しているということも十分にあるはずだ。VoA制度について言えば、少なくとも観光目的の渡航者の中で3~7割がこの制度を利用して渡印するような状況にならない限り、とてもこの制度が奏功し、観光客の間に浸透したとは言えないのではないだろうか。

コメントをお書きください

コメント: 4
  • #1

    サルバトーレ (火曜日, 11 12月 2012 18:55)

    おそらくシステム化が中途半端なので、一部手作業が入っているとのことです。しかも、絶対にシステムに登録されないと入国審査の対応ができないらしい。
    昨年は手書きで3日ででていたものが11月上旬に申請した方のビザが3週間たってもでてきませんでした。次の方はあまりにも時間がかかるため手書き申請に切り替えたところ1週間でおりました。
    しかも、対応がばらばら、まちまち「インドらしい」ということですが、もうそういう時代ではないと思うのですが。
    日本人入国者はますます増えているのですから、ビザ免除も含め再検討していただきたいものです。
    旅行会社勤務

  • #2

    tat-tvam-asi (火曜日, 11 12月 2012 23:05)

    サルバトーレさん、コメントありがとうございます。ビザの申請から3週間たっても受領できないのですか!困ったものですね。特に旅行会社にとっては死活問題なのではないでしょうか?

    最近ではビジネス目的で渡航する日本人も増加しているようですが、急な出張に商用ビザの発給業務が対応できないようです。

    オンライン申請を導入したのに却って非効率になってしまっているのは皮肉なものです。インド政府としてはVoAをもっと普及させたいようですが、料金面その他で通常の観光ビザと遜色ない条件を導入して欲しいですね。2か月ルールも撤廃されたようですし、先日行われたムンバイテロ実行犯の死刑執行以降、ビザ規制が緩和される方向に動いているような気がしています。

    実を言うと、私も今週ビザの申請に行くのです。早く受け取れたらいいのですが。

  • #3

    mahaera (水曜日, 13 2月 2013 20:48)

    現在、カトマンドゥですが、ここでもビザの手続きは日本同様で、ツーリストビザが7営業日(実質10日ほど)かかることにあきらめて、VoAで行く人もいるようです。ビザカウンターでも「空港でとれる」と言われますし。。。

  • #4

    tat-tvam-asi (木曜日, 14 2月 2013 00:04)

    mahaeraさん、貴重な情報ありがとうございます。サイトの管理人です。観光ビザが7営業日ですか。もともとカトマンドゥでは5営業日ほどですよね?日本で取得するよりは早いかも?ネパールからだと陸路でインドに向かう人も多いでしょうから、入国したらなるべく早くにインド大使館に出向かないといけませんね。

    かくいうわたしは先日インドビザを取得したのですが、急な仕事が入ってしまい2月のインド行きを断念しましたです。カトマンドゥ同様日本も寒いです。。。