エアアジアが仕掛けた空中戦


 

インドの国内航空市場が熾烈な価格競争戦に突入している。元来インドを拠点にしている航空会社は、何度か経営危機を迎えたナショナル・キャリアのエア・インディアや同社と経営統合したインディアン・エアラインズ、経営破たんして免許を剥奪され、運休中のキング・フィッシャーなど、決して合理的で健全な経営とは言いがたい会社が多かった。

 

そこへこの6月に殴り込みをかけてきたのがエアアジア・インディアだ。マレーシアを拠点とするエアアジアは、国際長距離路線でインドの各都市に就航していたが、2年前に発着料金の高さを理由に、デリーやムンバイなどの主要路線を廃止した経緯を持つ。外資への風当たりは強かったということなのか、今回、Tata財閥系のTata sons、Telestra Tradeplaceといったインド国内各方面に顔の利く企業と合弁でエアアジア・インディアを設立し、インドの国内航空市場に参入を果たしたのだ。

 

エアアジア・インディアの市場参入は謙虚なものだった。南部のバンガロールを拠点に、チェンナイ、ゴア、コーチなどの近距離路線だけでスタートしたが、PRを狙って諸税込みで339Rs,490Rsなどの投売り価格を提示した。

 
バンガロール・ゴア便は一部490Rs,291Rsなどで販売された模様
バンガロール・ゴア便は一部490Rs,291Rsなどで販売された模様

 

 

先日のグループ全路線対象のスーパーセールでもチェンナイ、コーチ路線で全て込み価格540Rs,600Rsといった思い切った価格で1年以上先の早期需要を取り込んでしまった。そして今月からは北部のジャイプール、チャンディーガル路線を新規に就航させる。

 

エアアジア・インディアの就航路線は、既存の他社がインド中に張り巡らせた網の目のような就航ネットワークに比べると、まだまだ小さな規模に過ぎない。しかし同社のダンピングと言われても仕方のないほどの低価格路線は。十分に競争相手を脅かし始めたらしい。他社も相次いでかつてないほどの規模と頻度でセールを実施し始めている。

 

→8/27はエア・インディアの日:100Rs+諸経費でチケットを販売

 

→スパイスジェット、3日間限定で一部路線を499Rs(税、その他料金別)に、その他も1999Rsから

 

→インディゴ・エアー、ジェットエアウェイズも価格競争に参戦

 

 

エアアジアの手法は、地上交通(鉄道・バス)とさほど変わらない価格を提示することで、1年先のようなにわかには決めがたい遠い将来の渡航計画と需要をどんどん掘り起こすやり方だ。これまで飛行機とは縁のなかった層に手が届く手ごろな料金で新たな顧客層を開拓することにより、市場自体を広げていく。

 

そうしたアグレッシヴな戦略を、安穏とした市場でシェアを分け合っていたインドの航空会社は敏感に感じ取っているのだろう。先日8月25日にもナショナルキャリアのエアインディアが国内路線に限って異例の大規模なセールを実施したのだ。オンライン販売でのみ有効とあり、同社のサーバーは混雑して接続できない状態が長時間にわたって続いたようだ。

 

例えばエアアジアの場合、先日のスーパーセールではバンガロールとチェンナイ、コーチを結ぶ便が諸税込み540Rsや600Rsといった3桁の価格で販売されていたが、これは鉄道のAC車両の予約料金よりも安い。日本で新幹線とLCCが顧客の獲得合戦を繰り広げているように、インドでも航空運賃が鉄道運賃と勝負できる時代に突入しつつある。

 

エアアジアが仕掛けた低料金の空中戦は、既存他社とのノーガードでの打ち合いの様相を見せながら、一方で地上の鉄道にも勝負を挑んでいる。インド国内の交通のありように大きな変革をもたらそうとしているかに見えるのだ。