信教の自由を否定する反改宗法

 

→5000人のダリットが仏教に改宗

グジャラート州ラージコットで、5000人以上の指定カースト、指定部族、OBCが揃って仏教徒に改宗する。今月29日に改宗式が開かれるのだと記事で紹介されている。その中で少し奇異な一文を見つけた。

"We have already started the necessary process to file consent papers of those people who want to adopt the Buddhism and they will be verified by district administration and police as it is mandatory," said Rathod.

ラトッド氏(仏教連合会の委員長)曰く「このたび仏教に改宗する予定の人たちの同意書をすでに用意し、県の責任者と警察に精査してもらっている」

???えらく回りくどいプロセスを経るんだな、と思っていると、最後に「われわれはグジャラート州で施行されているAnti-conversion Lawに強く抗議する」とある。Anti-conversion Lawというのはチラッと聞いたことがあったが、詳しくは知らなかった。民主主義国家にあるまじき名前の法律だったので、とっさに考えないようにしたのかもしれない。

改めて調べてみると、とんでもない法律だということが分かった。他所の国のことながら久々に頭にカッと血が昇ってしまった。Anti-conversion Lawというのは俗称で、実際にはインドの25の州のうちの7つの州(マディヤ・プラデーシュ、チャッティースガル、オリッサ、アルナーチャル・プラデーシュ、ラジャスタン、グジャラート、ヒマーチャル・プラデーシュ)で施行されている改宗に関わる法律を指すらしい。多くは「信教の自由を守る法」といったような名称だが、実際にはヒンドゥーからの改宗を制限するために作られた法律のようで、7州のうち6州ではヒンドゥー右派のBJPが政権の座にある中で立法、施行されたらしい。ただしヒマーチャル・プラデーシュ州は世俗派の国民会議派政権であるにも関わらず、この種の法律が施行されている。このような法律が各州で制定される背景には、とくにキリスト教関係者によるヒンドゥ教徒への教化・布教に対する反発があるらしい。だからキリスト教関係者からこの法律に対する懸念、反発がこれまでに何度となく強く表明されているようだ。

ヒマーチャル・プラデーシュ州の「宗教の自由法」では、改宗を望むものは、改宗式の30日前までに県当局に届け出ることが義務となっており、怠ったものには1000Rs-の罰金が科される。一方で元の宗教に戻る場合はこの限りでない、と定められている。つまりほとんどのインド人はヒンドゥとして生まれ、他の宗教に改宗することは難しいが、元に戻るのはたやすいことになっている。

また、「公正でない」手段によって改宗に至った場合は、改宗したとみなされない、とされている。そして「強制的に」又は「騙して」又は「誘導して」他人を改宗に至らしめたものは、2年以下の禁固刑又は25000Rs-以下の罰金が科されるとしている。もっと驚くことに、改宗者が未成年、女性、不可触民、少数民族などの場合にこれらの手段を用いた場合は、3年以下の禁固刑若しくは5000Rs-以下の罰金が科される、となっている。今までのところ訴追された人間は一人もいないとはいえ、ヒンドゥーの中で虐げられている人々に改宗を薦める他の宗派へのあからさまな脅しだ。「強制的に」「騙して」「誘導して」などという概念は幅広く解釈できる。警察・司法の恣意的な判断で、犯罪者が仕立て上げられるのだ。貧困にあえぐ人々に布教者が食べ物を与えることすら、「誘導」と捉えられかねない。実際にこの法律ができたことにより、とくに布教活動をする牧師たちに対して、ヒンドゥー至上主義者のグループがバッシングしたり直接的に攻撃するケースが増加しているという。

そうすると記事にある集団改宗のプロセスが少し理解しやすくなる。これらの州では、個人が今日から仏教徒に改宗した!と宣言して改宗することなどできないのだ。しかるべき社会的影響力を持った人間が先導して、改宗同意書などを事前に用意して、州当局や警察に根回しし、これらの人々に改宗式当日にわざわざ立ち会ってもらい、集団でまとまってようやく改宗できる。

一体誰のためにこんな法律があるのか。ヒンドゥ教徒が、ヒンドゥ優位の社会を保ちたいためだけに定められている法律だ。人の心の問題に権力が介入してきて改宗を認めるとか認めないなどとナンセンスなことが法律によってコントロールされている。こういうことでもしなければ信徒に逃げられてしまう宗教に未来などない。