インドの犯罪白書を読む:インドの犯罪は穏健化?女性への犯罪は増加

国家犯罪記録局はインドの犯罪白書Crime in India 2010 を発表した。昨年1年間で子どもに対する強姦事件は5484件、誘拐事件は10670件に上ったと伝えている。国家犯罪局のサイトから470ページにわたるpdfファイルをダウンロードできる。

→年間5000人以上の子どもが強姦被害、1408人が殺害される

→国家犯罪記録局のサイト(左メニューよりCrime in India 2010をダウンロード)

こういった犯罪統計からインドの犯罪の情勢を読み解くのは難しい。インドは州ごとに独立性が高く、法律もやや異なり、警察活動にも差がずいぶんありそうだからだ。日本などに比べると警察への信頼も高くない。むしろ警察が市民に暴力を振るったり、あらぬ言い掛かりをつけて賄賂を要求するような問題も後を絶たない。不可触民が被害者になる犯罪の捜査などもなおざりにされがちだ。公正さが保たれないと市民の間には何か事件があっても警察を頼らない、警察に通報しても仕方ない、という気運が支配的になる。そして多くの事件情報が警察に届かない、認知されないということになる。

あくまで、警察当局が犯罪事案を認知できたケースに限り、こういった白書にまとめられるということを念頭に置きながら、斜め読みしてみた。

ここ10年くらいの犯罪の認知件数の推移を眺めていると、とても興味深い。犯罪の認知件数は3割も増加している(犯罪自体が増えたのか、警察の動きが活発になったのかは不明)。しかし犯罪傾向としては一般的な暴力事案が落ち着いてきているような印象を受ける。具体的に言えば、殺人、殺人未遂、強盗などの件数はさほど変わっていないかわずかに減少している。年ごとに上下はあるが暴動や放火、徒党を組んだ収奪(群盗)も減少気味だ(ただし、傷害事件だけは増加している)。

一方で増加傾向にあるのは、窃盗や詐欺、背任、偽造など、主に金やモノを不法に奪い取る事件だ。また目立って顕著なのは、レイプやわいせつ行為などの性犯罪、誘拐(特に女性や少女の誘拐事件は10年前からほぼ倍増している)、そしてダウリを巡る殺人事件、夫やその近親者による暴行事件など。

つまり単純な暴力事件は落ち着いた状況にある一方、女性や子供など弱者を狙った性犯罪や誘拐(人身売買も含む)、インドの伝統的な社会では弱い立場にある「嫁」に対する家庭内の暴力(ダウリ殺人を含む)など、女子が被害に遭う事件は増加傾向にある。また窃盗、詐欺、偽造、背任など金品目的の知能犯罪も増えつつあるようだ。

地方別の刑法犯罪の認知件数では、マディヤ・プラデーシュ州、マハラシュトラ州、アンドラ・プラデーシュ州、タミルナードゥ州、ウッタル・プラデーシュ州と続く。意外だが犯罪件数について言えば南高北低の傾向があるらしい。その中でも2010年度のトピックといえば、ケララ州での犯罪認知件数が前年度から25.3%も増加したことだろう。ケララ州といえばインドの中でもさまざまな社会指標で先頭を走る先進地域だ。もともと人口も他州に比べてそれほど多くないことから、2010年度の10万人当たり犯罪発生件数は、424.1件と他州から抜きんでてワースト1となった。この背景に何があるかは分からない。なお主要都市別にみると、やはりデリーでの件数が多く、ムンバイ、バンガロールと続いている。