インド、今年は干ばつか


 

最近になってインド北部でいくつか雨による事故のニュースが相次いでいる。ウッタラカンド州ウッタルカーシー付近での大規模な土砂崩れ、ヒマーチャル・プラデーシュ州やメガラヤ州でのバス転落事故などだ。いずれも数十人単位で死亡者が出るなど、大きな被害となっている。

 

→ウッタルカーシーの町を襲った鉄砲水、死者は34人・行方不明者も

 

→谷底にバス転落、死者は52名、チャンバ(ヒマーチャル・プラデーシュ)

 

しかし例年雨季が始まる6月から、インド全土で異常に雨が少ない日が続いていた。モンスーンの到来が遅れていたのだ。今月初めにインド北・中部を中心に送電網のトラブルによる大規模な停電が発生し、6億人に影響を与えたニュースは日本でも報道された。脆弱な電力供給体制や改善が遅れている送電ロスなどが要因として挙げられているが、もう一つの要因として、本格的な雨季を迎えて本当なら少し気温が下がるはずだったのが、6、7月とも少雨の日が全国的に続き、気温が下がらなかったことも影響したようだ。電力需要が高い日々が続き、大規模停電の数日前からデリー周辺では比較的長時間の停電が何度も起きていて、怒った市民によるデモも行われていたのだ。

インド気象局は8月については例年通りの雨量が予想されるとしていて、実際各地に恵みの雨が観測されている。しかし9月については南米沖のエル・ニーニョ現象により、再び少雨になる可能性が高いとされている。

→エルニーニョ現象が発生、食料価格さらに上昇の恐れ(ロイター)

 

→8月の降雨は恵みの雨、問題は9月---インド気象局

 

6月1日からの降雨量は、一昨日(8月11日)までの累計でインド全土で平年より16%のマイナス、特に北のカシミールからヒマーチャル・プラデーシュ、首都デリー、ウッタル・プラデーシュ州にまたがるインド西北地域は平年より31%も少なくなっている。

 

→インド各地域のこの雨季の降雨量(累計)

(※右側のメニューの"Special Daily Reportをクリックすると前日or前々日の報告書が出ます。)

 

 

この予報通り9月の降雨量も平年を下回れば、直近の2002年(平年値より19%マイナスの降雨量)の干ばつを超えて、およそ1世紀前の1919年(28%マイナス)の記録に迫る「世紀の干ばつ」になる可能性があるとインド気象局は警告している。

農業への影響だが、インドの農業は元来、灌漑設備が十分でなく天候の影響を大きく受けやすい。最近では2002年、2008年の干ばつの際にも各種作物の収穫が大きく落ち込んだという。ただし、主食であるコメや小麦については従来より国内の全需要量に対してやや過剰気味に生産できており、政府が一定量の国内備蓄をしていることから、急激な品不足や価格高騰にはつながりそうにない。また、砂糖についても同様の理由で政府が国内備蓄を放出することで需要に応えられるだろうが、野菜類やインド料理に大量に使われる食用油の原料となるアブラナなどは天水に依存している畑が多いだけに、干ばつの影響をまともに受けやすい。

とかくIT産業など第3次産業が注目されがちなインドだが、労働人口の半数は農業従事者だ。そしてその多くが貧困ラインを下回る階層に含まれる。農作物の壊滅を警戒するインド政府はさっそく対策に乗り出した。

→地域開発省、地方雇用保証政策の拡充へ

インドには、主に地方の貧しい農業労働者のための雇用保障制度がある。ガンジー翁の名が冠せられたMahatma Gandhi National Rural Employment Guarantee Act だ。これは農閑期などに農業労働者が主に公共事業のなるべく近場の日雇い労働に従事できる制度であり、申請すれば1日130~150Rs程度の日当で専門技術や知識を必要としない単純肉体労働が年間120日程度割り当てられるというもので、農業に従事する世帯の貴重な現金収入先となっている。予算の負担が重いことからくる給与の遅配や、労働者の作業効率の悪さなどが指摘され、問題となっているものの、今年のように農業セクターの収入が激減すると予想される年には、日本の生活保護制度にも似た、最低限の生活を守る制度として機能するのだ。