カンニングだけじゃない、インドの試験



先日、ビハール州のクラス10の修了試験で大規模な不正とカンニングが明らかになった事件は日本でも報道されたのは記憶に新しい。




これ以外にも、修了試験をなんとかパスするために、インドの生徒たちが答案用紙にさまざまな小細工をしている様子が報道されている。それがかなりインドらしいというか、呆れつつも笑える。


ちなみにこれらはクラス10、クラス12辺りなので、日本では高校生かそれ以上の年代の生徒たちの仕業だ。クラス10、12の修了認定試験合格は、それまでの進級試験と異なり、その後の大学の入学試験の必須条件となるので、みな必死だ。また、進学を目指さない女子にとっても、昨今では修了証書がダウリ(結婚のための持参金)の一部のように考えられる風潮があるため、やはりみな必死だ。

これらはみな、答案を採点する教員たちに読んでもらうものだが、普段通っている学校とは別の学校で試験が行われ、採点も自分たちの知らない教師が務めるため、大胆になるらしい。


まず驚くのは、自分の名前が書かれた答案用紙にお金(お札)をセロテープでペタッと貼り付ける行為だ。こんな答案用紙をそのまま回収する試験官がいることにも驚いてしまうが、ひょっとしたら「よくあること」で、暗黙の了解となっているのかもしれない。


→「ピタゴラス」を知らない数学教師とお札を貼り付けた答案用紙




それから、試験の出来がさっぱりだった生徒が答案用紙の最後に悪あがきとして、さまざまな言い訳や泣き落としの文章をつらつらと書き連ねるのだそうだ。


→「合格させて、じゃないと結婚できなくなっちゃう!」



例えばこんな感じだ。


「私は両親が再婚したときの連れ子で、もし試験に合格しなかったら継母からいじめられます。それに家がとても貧しいせいで、お金(賄賂のこと)を答案用紙につけることができません。でもどうか合格させて下さい。」


インドでは多くがarranged marriageで、女子は学校の卒業とともに親が決めた相手と結婚することも多い。


「わたし(女子)は6月に結婚することが決められています。もしこの卒業試験に合格できなかったら、結婚相手の兄弟(叔父)が結婚を取り止めにしてしまいます。だから合格させてください。」


また、こんな笑える脅迫も答案用紙に書いてあったりするそうだ。


「もし不合格にしたら、自殺します。そして絶対に幽霊になって、あなたのところに現れますよ。」


「僕は小さいときに父親を亡くしてしまい、母親が一人で僕を育ててくれました。僕が試験をパスして良い職に就かないと、11人の妹を養っていけません」


「僕は本当は成績優秀なんですけど、今、手が腫れてうまく答えを書くことができません。『成績優秀者』リストに残れるように、33問中30問を正解にしてください」


こんな脅しの文句もあったそうだ。これはどういう意味か分かるだろうか?


「もし僕を合格させてくれたら、あなた(採点をする教員)を僕の義兄弟にしてあげる。でももしも僕を不合格にしたら、僕があなたの義兄弟になるからね。」


つまり自分を合格にしてくれたら自分の妹と結婚させてあげる、でも不合格にしたら採点者の妹を奪って結婚する、という意味だ。arranged marriageが主流のインド社会を反映した笑える脅し文句だ。


以前、U.P州のクシナガラでいろんな小学校を回った経験から、インドの子どもたちのカンニング癖については、話として聞いていた。3月は年度末試験の時期で、小学生でも成績次第で進級か留年か分かれる(実際は教師の裁量で下駄を履かせる場合も多いという)。


試験中の学校を訪ねる機会が何度もあったが、確かに隣の答案を覗きたい、という誘惑を抑えられない子どもたちの、およそ不自然な動きをする姿をよく見かけたものだ。貧しい学校では教室の大きさに対して生徒の数が多すぎて、隣とのスペースが十分に確保できないため、試験のときだけ校庭に出て、それぞれ離れて地べたに座らせて試験を受けさせる風景も良く見かけた。


校庭で試験を受ける児童たち(クシナガラ、U.P)
校庭で試験を受ける児童たち(クシナガラ、U.P)


インドの全ての学生がこうだとは言えない。南インドの友人は「こんなの北インドだけだよ」とも言う。しかし、今のところ質の悪い教育サービスしか提供できていない州政府の公立学校(Government school)や地方の小さな私立学校が主に参加する、こうした州政府傘下の試験でこうしたことが相次いで起きていることが、今のインドの教育格差をそのまま象徴している。