2011年

4月

08日

女児抑制のイメージ

国勢調査の結果を見ると、性別割合が極端にアンバランスな地域がある。それは旧ポルトガル領で今は政府直轄領となっているDadra&Nagar haveliと、Daman&Diuだ。いずれもインド西岸に位置し面積が小さく、住民人口も他の州と同レベルで考えることに無理があるほど小さい(34万人と24万人)。しかしこの2つの地域の0-6歳児については、男子1000人に対し、女子はそれぞれ924人、909人とインド全国平均の914人に近い数字だが、7歳以上についてのデータを見るとそれぞれ752人と、驚くなかれ、Daman&Diuでは589人しかいないのだ。前回調査時(2001年)でもこの2つの地域は女子が他の州に比べて極端に少ないのだが、今回、その傾向がさらに強まっている。地方では男子が出稼ぎに他の都市部へ流出し、女子の割合が高まるということがあるがその逆はあまりないはずだ。一体どういう背景があるのだろう?

国勢調査:性別割合(州ベース)

インドの性別割合のアンバランス、特に0-6歳児のバランスが最悪と以前から言われているのはハリヤナ州だ。今回(830人)は2001年の前回(819人)より好転したものの、汚名返上とまではいかなかった。依然として一定の人口を擁するインドの州の中では最悪の地位に甘んじている。そのハリヤナ州の現状をTimes of Indiaが取り上げている内容が、とても興味深い。

後進地区のメワット、女児の数では首位に

ハリヤナ州は、デリーNCR(直轄領)に隣接し、商都グルガオンを擁する近年発展目覚ましい州だ。一方で性別割合は国内最低ランクというありがたくない評価を受けている。そのハリヤナ州をさらに細かくdistrict単位で見ていくと、Mewat、Fatehabad、Rewariなどの後進地区での性別割合は比較的ましである一方、Gurgaon, Sonipat, Panipatなどの、いわゆる開発地区では性別割合の数値が800台と悪く、州の平均を下げているそうだ。一方で女性の識字率に関しては、Mewat(37.58%), Fatehabad(59.29%)などが低い一方で、Gurgaonは(77.64%)と高い識字率で州平均を上げている。

男子選好の風潮はインド社会に古くからはびこるものだが、はっきりとバランスを欠く状況になったのは、ごく近年のことだ。50年前の1961年の国勢調査では、インド全体の性別割合(0-6歳児)は男子1000人に対し、女子は976人だった。10年ごとの国勢調査の度に、964,962,945、927と下落を続け、今回は914人という数字になった。

ハリヤナ州の例も合わせて鮮明に浮かび上がるこの問題の大きな特徴は、堕胎技術の向上と手術の普及により、手術を受けられる経済力のある層が、性別判定後に堕胎手術をしていると推定されることだ。インドでは性別判定を医者に求めること、医者がそれを伝えることが禁じられている。どれも禁固又は罰金が科される犯罪なのだ。そして妊娠21週目以降の堕胎手術が法律で禁止されている。これは22週目まで可能と定められている日本よりも厳しい。一般的にエコー画像などで胎児の性器の外形的な特徴が認められ始めるのは最も早くて11週目以降と言われているが、その時点で性別の判定までするのは難しく、もっと後にならないとはっきりしないという。今では技術が発達して、尿を採取して自分で調べられるキットや、血液サンプルを送って数日で調べてもらえるサービスなど、より早く性別を調べられる技術もあるようだが、それでも堕胎が20週目以内と定められたインドでは、たとえ違法に性別を確認した後でも、合法的な期間内に堕胎手術をするのは、難しいことも多いはずだ。闇の堕胎手術も行われている可能性が高い。ある程度裕福な層が、闇の報酬を払うことによって、その闇の手術を支えているということになる。実際、デリーNCR、ムンバイを抱えるマハラシュトラ州のような富裕層の居住する州でも0-6歳児は800人台と国の平均以下なのだ。

これについては地域別だけではなく、親の年収や学歴による女児の割合というようなクロスリサーチが為されるべきかもしれない。

一方で、出産後に女児が間引きされる、いわゆる嬰児殺しが全くないかと言うと、それは言いきれない。病院で出産するケースが増えているとはいえ、農村では赤子を取り出す経験豊富な助産婦的な役割を果たす女性が今でも健在だと聞いた。村の中で秘密裏に出産が行われる場合は、何が行われているかは外の人間には分からない。今はずいぶん改善されが、インドはつい最近まで乳幼児死亡率の高い国だった。農村では死産など日常茶飯だった。間引きを死産として片づけることも容易だったはずだ。実際に貧しい州や地域でも、多少のアンバランスは認められる。しかし今のように堕胎手術が普及する以前の数字を考慮すると、決して広く行われてきたとは考えられない。人々は男児を望みながらも、女児が生まれてくれば基本的にはそれを受け入れていた。ただ、わずかな割合とはいえ秘密裏に間引きが行われてきた可能性は否定できないということだ。

この問題は見えない部分が多く、大ざっぱにしかイメージできないが、豊かな層が増えたことによる女児堕胎の広がりの中で、どの程度なのか分からないものの嬰児殺しが小さな比率を占めてインドという国の性別割合のアンバランスを構成しているのではないだろうか。そして今後国が豊かになり、所得が増加する層が増えるとすると、このままではこの傾向は続くことになる。実際この経済的に豊かになった10年で数値がガクンと落ちたことが、それを証明している。教育が普及し、理性に目覚める人が増え、豊かになっても、必ずしも古い因習を断ち切れないインドの現実がある。