2011年

12月

04日

インドの犯罪白書をもっと読む インドでの犯罪全般の傾向について

参照資料→Crime in India 2010

これまで何度かに渡って、インドの特定の分野にスポットを当てて見てきたが、この英文のCrime in India 2010を読むのに慣れてきたので、インドの犯罪動向について、オーソドックスに見ていくことにする。

下のグラフは、インドの刑法(IPC)と特別法(SLL)を合わせた犯罪認知件数と、人口の増減を加味して調整した数字=発生率(人口10万人当たりの発生件数)の推移だ。このグラフを見る限り、インドでは2000年代半ばのある時期を例外として、じわじわと犯罪は増えている。

犯罪の地域性についてだが、インドというととかくデリーやウッタルプラデーシュ州を中心とした北部に治安の悪いイメージを抱きがちだが、Crime in India 2010を眺めていると、必ずしもそうとは言い切れないように思える。これらの地域は人口がとても多いので、犯罪の発生件数もそれに比例して多いが、犯罪の発生率(人口10万人当たりの発生件数)で見ていくと、ウッタル・プラデーシュ州の南に隣接するマディヤ・プラデーシュ州を中心として、その北西に位置するラジャスタン州、東に位置するチャッティースガル州、南東のアンドラ・プラデーシュ州が頻繁に上位にランクされている。これらの州は人口もそこそこ多くて、犯罪の発生件数も多いことから、発生率も自然と高くなっている。インドを斜めに横断するこのカギ型のベルト地帯に加え、犯罪の種類によって東北部やJ&Kの辺境諸州、南部のカルナータカ州が上位にランクされる。なお、刑法事犯の発生率は断トツで南部のケララ州となっているが、殺人や強盗、強姦、窃盗などの重要犯罪は少なく、「その他の刑法犯罪」が大半を占めることから、別に考えた方がいいかもしれない。

IPC(インド刑法)抵触犯罪の発生率をもとに色分けしたマップ。ピンク、黄色、青の順で高い(Compendium 2010より抜粋)
IPC(インド刑法)抵触犯罪の発生率をもとに色分けしたマップ。ピンク、黄色、青の順で高い(Compendium 2010より抜粋)

 

犯罪の種類としては、どのような傾向があるのか。主要な犯罪の件数についての記録をCompendiumn 2010から抜き出し、年ごとの推移を表したのが次のグラフだ。近年、著しく増加傾向にあるのは窃盗、傷害、詐欺、そして夫や親族による女性への虐待だ。逆に長期にわたって減少傾向にあるのは押し込み強盗だ。これは主に家などに押し入って脅しながら金品を奪う犯罪で、路上などでの強奪事件や、空き巣や置き引きなどの窃盗、盗賊を組んで集団で村や列車を襲って金品を奪う群盗などは別に集計される。

激しい増減を示している犯罪だけを強調した。下に何本も重なった線はその他の犯罪
激しい増減を示している犯罪だけを強調した。下に何本も重なった線はその他の犯罪

 

殺人や傷害など暴力的な犯罪件数の推移を見ていくと、殺人、殺人未遂、過失致死など人命に関わる犯罪はどちらかというと落ち着きつつあるようだが、傷害の件数は高い増加傾向にある。そして誘拐の急増ぶりは非常事態といえる。誘拐の被害に遭うのが大半は女性で、犯行動機も多くが結婚(駆け落ちも含む?)ということを考えると、即座に生命への危険性はないかもしれないが、性的虐待につながることもあり、暴力的な犯罪と隣り合わせの性格を持ち合わせているのかもしれない。また強姦をはじめ、他の性犯罪、夫や親族による虐待など、女性が被害者となる犯罪は増加傾向を示している。

傷害は件数が多い上に近年急激に増加している
傷害は件数が多い上に近年急激に増加している



金品や財産を狙った犯罪については、押し込み強盗や強奪、群盗などの荒っぽい手口は減少する代わりに、窃盗や詐欺などが増加傾向にある。

 

都市部と農村部で犯罪の発生に違いがあるのだろうか。→インドの犯罪白書を読む 性犯罪の動向で、性犯罪については都市部と地方ではそれほど差がないのではないか、と推論したが、Compendium 2010でとても興味深いデータを見つけた。

下の表は、インドの主要35都市の犯罪(IPC)発生率とそれぞれの都市がある州の犯罪(IPC)発生率とを比較したものだ。ちなみにこの主要35都市というのは、2001年の国勢調査時に人口100万人を超えていた都市であり、当時インドの都市人口は全人口の27.8%を占める2億8535万人とされていたが、そのうちの37.8%を占める1億788万人がこの主要35都市に集中していた計算になる。それから10年たった現在では状況ももっと異なっていると考えられ、2011年度に行われた国勢調査をもとに精査し直す必要があるが、ここではCompendium2010に掲載されたデータをそのまま紹介するにとどめる。

Compendium 2010より抜粋
Compendium 2010より抜粋

主要35都市のうち、犯罪発生率がその都市がある州の平均犯罪発生率を下回った都市はチェンナイ、ダナバード、コルカタ、マドゥライ、の4都市に過ぎず、他の31都市は上回っている。主要35都市の平均発生率は州の平均発生率の1.8倍程度あり、都市部の方が犯罪発生率が高いのではないかという仮説を強化する結果となっている。

また、主要35都市の犯罪発生件数の合計と、それ以外の地域での犯罪発生件数の合計をそれぞれ犯罪種類別に比較して割合を示したのが以下のグラフだ。これら主要35都市の人口合計はインド全土の人口の9%でしかないとCompendium 2010では規定している。したがってそれぞれの犯罪の発生件数も全体の9%が基準となる。9%だと発生率は主要都市も他の地域も変わらないということになる。



しかし実際のところ犯罪の種類別にみると特徴が表れている。主要都市に発生の割合が大きい犯罪として、偽造、詐欺、背任、窃盗、強盗などが目立つ。共同体がしっかりとして相互に助け合える地方と異なり、都市部での生活は孤立しがちでコストがかかるということだろうか。経済犯のほかに、金品を狙った窃盗や荒っぽい強盗などが大きな割合を占めている。誘拐の発生率が目立つのは、恐らくデリーでの高い発生率が影響しているのだろう。一方で私たちがイメージしがちな犯罪---殺人とか、傷害、強姦などの凶悪犯罪は決してこれら主要35都市の間では大きな割合を占めているとは言い難い。これはインドの都市部と地方、それぞれの犯罪傾向を考える上で重要なことかもしれない。都市部での犯罪発生率は高そうだと一般化して言えるかもしれない。そしてその犯情は、窃盗や詐欺などのソフトな手口の犯罪を中心に、強盗のような粗い手口のものも含めて、主に金品を狙った犯罪が多く占めているようだ。