2012年

4月

18日

ビザを巡る攻防-米大統領選とインドの雇用ビザ

 

インド政府とIT産業界がアメリカに対し、ビザ発給の緩和を求める動きを活発化させている。

 

→米・印大手企業、共同でビザの緩和を求めてオバマに嘆願書

 

インドのIT産業はアメリカ企業のオフショア開発の担い手となって急成長し、インドの貿易収支に大きく貢献してきた稼ぎ頭だが、同時に積極的にアメリカに進出して子会社を作り、現地の取引先に直接システムエンジニアをはじめ技術者を送り込んで足場を固めてきた。その際に利用されるのがアメリカのL-1ビザと呼ばれる駐在員用のビザだ。アメリカのインド系企業は本国で雇用している技術者をL-1ビザで呼び寄せてアメリカで働かせるため、極端に安い人件費でシステム開発を請け負うことができたのだ。すでにアメリカの市場に食い込んでなくてはならないワークフォースになっている。

→ビザの発給却下、インドのIT産業に大きな打撃

しかし一方で彼らは「やり過ぎた」のだ。アメリカの雇用状況が悪化するにつれて、数年前からアメリカ政府はL-1ビザの発給を制限するようになってきた。L-1(B)ビザの申請の「却下率」は2005年度から2007年度にかけて6~7%だったのに対し、2008年度には一気に22%に上昇、2011年度には27%になったという。H-1Bビザの却下率も昨年は26%に上ったそうだ。申請料もばかにならない。アメリカ移民局は米国民の雇用率の低い企業に対してH-1Bビザ申請料の大幅な値上げをすでに決めており、明らかにインド系企業を狙い打ちした格好だ。それに対してインド政府はWTOへの提訴を検討している。


一方アメリカ政府、特にオバマ大統領の姿勢はむしろ今年に入ってから先鋭化している。この2月には「アメリカ企業は中国人、インド人の技術者を雇うべきではない、アメリカ人の技術者を積極的に育てるべきだ」「オフショア開発、外国に業務の一部をアウトソーシングするようなアメリカ企業は減税対象から外されるべき」といった発言を繰り返している。これは今年秋に行われる大統領選を前に、オバマ大統領が支持率の低下に苦しんでおり、雇用の改善で有権者にアピールする狙いがあるのだろうが、TPPなど自由貿易の旗手を自認する一方で、こういった露骨な保護主義は批判されても仕方がない。

対するインドのビザ政策はどうか。アメリカのビザ政策がインドに厳しくなるのに歩調を合わせて、インドも商業ビザの発給を厳格化している。ビジネスビザについては2009年に中国企業がインドにおけるプラント建設現場に大量の中国人労働者をビジネスビザで入国させて建設労働に従事させていたことが発覚し、大問題になった経緯があることから、現在では慎重に運用している。

 

そして雇用ビザについては2010年から発給の厳格化を打ち出した。具体的にはブルーカラーはもちろん、ホワイトカラーの雇用も守る必要からビザ取得者に収入制限を設け、インド国内で年収25,000ドル以上の収入を発給条件に据えることを決めた。インドで25,000ドル以上の年棒で招聘される外国人というと、相応の能力・技術が必要とされるわけだが、それに満たない普通の能力、インド人でも代替可能な職務では原則的に雇用ビザは発給されなくなったのだ。但し外国公館の職員や外国料理の料理人、通訳、英語以外の語学教師などのように、通常インド人ではなかなか代替できないような職種については前述の年収制限は適用されない。

→インド内務省 WORKING RELATED VISAに関するFAQ

 

これはインド国内のホワイトカラー保護よりもむしろ、アメリカに向けた政治的な思惑、メッセージという意味合いの方が強いのではないか。


とはいえアメリカのビザ政策を保護主義的と批判できないほど、インドのビザ政策もひどいのだが、今秋のアメリカの大統領選挙を控えて雇用改善を目指すオバマ大統領に対して、インド系企業はまだ当面の間劣勢に立たされそうだ。そしてインドで就業を目指す外国人にとっても雇用ビザの発給については当面厳しい状況が続くのではないかと思われる。