2013年

3月

29日

性犯罪はこうしてもみ消される

つい先日、珍しい映像が公開された。ウッタル・プラデーシュ州の西部、デオリア地区で、あるダリット(不可触民)の女性が、夜に小用を足すために外へ出たところ、男に襲われた。殴られて気を失った女性が意識を取り戻した時、彼女は自分が強姦されたことに気づき、家に帰って夫にそのことを話したという。翌朝早くに女性と夫は被害を訴えるために警察署を訪れた。女性を襲った男は近隣の村に住む男なので顔も名前も知っている。

 

→警察署長、強姦被害者に「こんな年増の女を誰が強姦するのか」

 

インドでは強姦被害に遭った場合、速やかに医者にメディカルチェックを受けることになっている。被害の有無を客観的に確認するとともに、体液の採取など容疑者を特定するための証拠を集めるためだ。しかし対応にあたった警察官は彼らの話を一通り聞いたうえで、なんとeve-teasing(性的なからかい)で調書を作成したのだという。インドでは男性が通りすがりの女性などに卑猥な言葉を掛けるようなことが多くあり、eve-teasingとして取り締まることがある、刑法にも規定されていて法に触れる行為ではあるが、強姦に比べるとずいぶん軽い扱いだ。納得できない夫婦は警察署長(Additional superintendent police)のオフィスを訪ねた。3時間以上待たされ、ようやくオフィスから出てきた署長に夫婦は話しかけることができ、彼らの身の上に起きたこと、警察官たちに強姦事件として相手にされなかったことを訴えた。

 

署長「奥さんは何人子供いるの?」
夫「4人です」
署長「一番上の子供は何歳?」
夫「17歳です」
署長「そんな年増の女を誰が強姦するんだ、どうせ何か裏があるにきまってる」

このやり取りがその場にいた第三者によってカメラ付きの携帯電話で録画され、その日のうちにニュース番組で放映された。あわてた州政府は翌々日に該当の署長ほか数人を異動させ、速やかに被害届の受理と女性のメディカルチェックを実施したが、すでに残留物などは検出できなかったという。

もう一件、少し前にハリヤナ州で起きた事件。ハリヤナ州はインドの農村社会に息づく地方政治の要であるカップ・パンチャヤット(村議会)がしっかり生きている地域であり、家父長制社会の特色を強く残していることでも知られている。女児の堕胎が横行した結果、男女の人口のインバランスがインドで最もひどい地域とされている。

ある青年が、町の市場に兄と買い物に来ていた女性の体を触るなどわいせつ行為を働いた。女性の悲鳴で、すぐそばで買い物をしていた兄は友人を呼ぶなどして犯人の青年をつかまえ、警察署へ連れて行った。ここから事件は、意外と思える展開をする。

 

→わいせつ行為容疑者、カップ・パンチャヤットが裁定して放免


加害者と被害者の家族、そして村のパンチャヤット・メンバー(長老)たちが警察署に集まって来て、警察官たちのいる前で善後策の協議を始めたのだ。いわゆる、カンガルー・コート(野外裁判)だ。加害者、被害者双方の話を聞いたうえで、長老たちが話し合い、多数の人々の面前で加害者の青年が被害者家族の長である男性(被害者の祖父)に深い謝罪(足に頭を付ける)と、二度と過ちを犯さないと誓い、決着した。結局、警察への被害届は出されなかったのだ。その間、警察署の警察官たちは長老たちによる私的裁判をただじっと眺めているだけだったという。

「被害届が出ていないのに、我々に何ができる?」と警察官はうそぶく。インドの田舎では今なお、法よりも権威のあるものが存在する。警察官たちもそうした農村特有の社会構造に配慮し、妥協してやっていくしかない。カップ・パンチャヤットと敵対すれば、彼ら自身もその地域で活動する上で何かと不都合を強いられるからだ。また、被害に遭った女性は成人で既婚だというのに、加害者の謝罪対象が一家の長である老人男性だったというのも、古いインド社会の特徴をよく示している。女は未だインド的家父長制度の中で一人前と見なされないのだ。

インドの性犯罪の統計を確認すると、2011年度における強姦の認知件数は24206件、わいせつ行為は42968件、セクシャル・ハラスメントは8570件となっており、強姦の件数に対して、より軽い犯罪の件数がそれほど多くないことに気が付く。本来であれば強姦の件数の裏には数倍のわいせつ行為、さらにその数倍のセクハラ行為が発生していると想像できるのだが、軽いものは被害届が出されにくい、事件としてなかなか扱われない傾向がインド社会にはあるのだろう。

また、インドでは性犯罪、特に強姦事件は捜査する警察側としては比較的「イージー」な案件であることが多いはずだ。なぜなら、加害者のほとんどは被害者の顔見知りであることが多いからだ。統計によると、94.2%が被害者の顔見知りとなっている。はじめから容疑者が絞り込めて逮捕に至っても、裁判を経ると有罪率は26.6%(2011年)にとどまっている。一体どこに問題があるのだろう?

皮肉なもので、カメラ付携帯がインド国民の間に普及するに従って、こうした今まで噂レベルではいくらでもあったインドの因習が少しずつ映像で明らかになるようになった。しかしカメラ付携帯は集団強姦の際に、加害の様子を加害者が撮影し、被害者の口封じに使われることも多いという。今のところ、今回のように隠れた性犯罪を掘り起こすことよりも、どちらかというと隠蔽の道具として使われることのほうが多いのではないか。

 

参考資料:Crime in India 2011,Compendium 2011,National Crime records Bureau, Ministry of Home Affairs, Government of India

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コメント: 1
  • #1

    田中 (火曜日, 17 12月 2013 22:24)

    女性を守るべきであり。
    男性も女性も同じびょうどうであるべきだ