2015年

3月

16日

勇気の顔

38日はInternational Women's day であり、インドでもいくつかこれに関してトピックがあった。


国際的に論議を呼んだのは、イギリスBBCが製作したドキュメンタリーフィルム、"India's daughter" だ。201212月にデリーで起きたバス内での女子学生強姦事件(いわゆる、Nirbhaya case)は、その犯行の残忍さから国外でも大きく報道された。犯行に加わった5人のうち3人が異例の裁判スピードで死刑判決を受けた。

 

インドはたくさんの死刑囚を抱えながら、刑の執行に大変慎重な国であり(→揺れるインドの死刑制度 を参照)、死刑判決を受けた死刑囚たちも、最高裁判所から「当面の保留」が指示されて宙ぶらりんの状態が続いたままだ。

その死刑囚の一人にBBCがインタビューを行った場面がIndia's daughter”には収録されており、死刑囚の発言があまりにも社会に挑戦的で反省の姿勢が見られないことから、3/8International Women's Dayに合わせて放映される前から大きな反響を呼んだ。慌てたインド政府は刑務所内で行われたインタビューの手続き無効論や、社会に大きな不安を与える、といった影響論で国内での放映を認めない方針を取りつ、youtubeでの削除も求めた。

 

  • 「レイプは男よりも女のほうに大きな責任がある。」
  • 「女は家で家事をするものだ、夜9時を過ぎても外で遊び歩いているからこんな目に遭うんだ」
  • 「レイプの途中、あの女は抵抗したんだ。もしおとなしく言うことを聞いていたら、終わった後に解放し、男のほうを殴るだけで許してやったのに。」

 

言いたい放題の発言内容は世論を大きく刺激し、治安を不安定にすると政府から判断されたようだ。

BBCはインド国外では放送し、録画映像はyoutube以外の動画視聴サイトに一時的にアップロードされたりして、結果的に多くの国民がそれを視聴した。インド政府の下手な対応が皮肉なことに却ってパブリシティ効果を生み、多くの国民の関心を集めることになったのだ。

タイミングを同じくして、ナガランド州のDumapurという町で、レイプに対する抗議デモが起こり、抑えが利かなくなった群集が刑務所を襲撃して、強姦容疑で勾留されていた容疑者を引きずり出して、リンチした上に最後に撲殺するという凄惨な事件が起きた。India's daughter もこの事件に少なからず影響を与えたと見るのが自然ではないだろうか?

 

→ 怒りに震える群集、中央刑務所を襲撃


 

もう一つ、International Women's Dayに関連する、全く別の角度からのトピック。

acid attackの被害者を支援する団体International Women's Dayに合わせて、カレンダーを製作、発売した。インド国内のほか、海外へも発送するという収益金はacid attackの被害を受けた女性たちのリハビリテーションや整形手術の費用に充てられるという。

 

→美を問い直す:acid attackの被害者がカレンダーに登場: Women's day

 

カレンダーの内容は、acid attackの被害に遭った女性たちあえてモデルに起用して撮影したもので、かなり挑戦的な内容だ。

acid attack---インドでは、主に女性が路上などで酸を顔にかけられて重症を負う事件が後を絶たない。加害者は男性のことが多く、多くが痴情のもつれ、私怨などによる報復で、被害者と加害者は互いに顔見知り以上の関係であることが多い。デリーに拠点を置く支援団体Chhanvでは、インド国内で年間におそそ300件程度のacid attackが起きていると推計しているのだそうだ。

一体どんな酸が犯行に使われているのか知らない。恐らく工業用の硫酸などの管理がいい加減で、割と簡単に入手できる状況にあるのだろう。被害者(多くが女性)は一命を取り留めたとしても顔などに大きな火傷を負い、顔面の崩壊を抱え、女性として人間として恥辱の人生を強いられることになる。被害の悲惨さは、加害者の卑劣な性根をそのまま映した結果だ。

Stop acid attack キャンペーンを推進するNGOChhanv(デリー)は、キャンペーン発足3周年を記念してカレンダーの企画、製作、販売を行い、売り上げの一部をこうした被害者たちの医療ケアと整形手術の費用に充てることを計画している。


 

カレンダーは、11人のAcid attack survivorをモデルに起用し、それぞれのその後の人生を表現するか、今後こうなりたいという夢を写真で表現した。そしてそれぞれ、被害に遭うまでの経緯、その後の生活などについての詳しく紹介されているという。

カレンダーは20153月から始まり、20162月に終わる仕様になっており、例えば4月はラクシュミがページを飾っている。写真の中でいくつもの帽子をかぶり、TVニュースのアンカーに扮した彼女は歌手になりたいという夢を持っているのだという。

ギータは21年前に当時の夫に2人の娘とともに酸をかけられた。シェフになりたいと思っていたが、このほどアグラにあるカフェでその夢をかなえ、そのシェフ姿で写真に収まっている。1人生き残った娘のニートゥは、歌手になる夢があり、写真の中ではヘッドフォンを頭につけてマイクに向かう姿を披露しているのだそうだ。14歳のドリーは35歳の男にストーカー被害を受け、挙句に顔に酸をかけられたのだという。「医者になりたい」という夢を持つ彼女は夢をかなえるべく勉強中だ。

「誰一人写真を撮られるのを恥ずかしがる人はいなかった。人生において大きな苦難を経験したとき、人はいかにしてそれに立ち向かい、闘い、運命を変えていこうとするのか、これほど力強いお手本はない」と撮影を担当したベルギーの著名な写真家、パスカル・マンナート氏は語った。


「本当の意味での美と、身体的な美を失った人に対する誤った認識を持つ世の中について議論をしている中で、このカレンダーの企画のアイディアが生まれた」と、メンバーのアシッシュはミーティングを振り返って語った。


美とは何か、被害者たちのポジティブな姿勢の中に息づくインナービューティを発掘し、世界に向けて発信することで美の再定義を問いかけるその試みは、とても創造的で、とても挑戦的だ。


インドという国は本当に不思議な国で、先に紹介した獄中の死刑囚のような、救いようのない下衆、下劣を内に宿す者たちと、後に紹介したような、日本人の感覚ではとても生まれ得ないような、崇高な着想を世に問う者たちが、同時に、隣同士に存在する。The times of Indiaは、彼女たちの試みを、Faces of courage と表現した。

 

International Women's Day :勇気の顔(ぶれ)

 


彼女たちの勇気に敬意を表して、ここは意訳をせずにそのまま訳しておこう。「勇気の顔(ぶれ)」と。



 

●カレンダーの販売元(海外発送もできるようです)

        http://paltan.in/

 

●acid attackの被害者を支援するNGO、"Chhanv"

        http://chhanv.org/

 

インドの社会活動支援サイトMilaapのacid attack survivor支援


●アグラー、タージマハルに観光に行かれる方

 

   タージマハルの南方約2kmに前記Chhanvが運営するカフェ、Sheroes' Hangoutがあります。acid attackの被害者を支援する活動の紹介、ワークショップ、ハンディクラフトの展示などを行っているそうです。ご興味のある方はぜひ。カフェの詳細、住所、グーグルマップは以下のサイトを参照願います。

 

   http://sheroeshangout.com/