2012/3/5 ●ラクノウのショッピング街


汚いホームに座り込み、うとうとして過ごした。少し明るくなりかけたころにトイレに向かい、水道で歯を磨いて顔を洗った。チャイをゆっくり飲み、駅前に朝の喧騒がよみがえってくるころに外に出た。何十人かのリクシャワーラーに声を掛けられながら歩く。

ラクノウに来たのはちょっとした興味だった。ラクノウはU.P州の州都だ。ちょうどU.P州の州議会選挙がつい先日まで行われており、開票が進められていた。結果は明日発表というスケジュールだった。選挙の喧騒というか興奮のようなものが感じられないかと思い、寄ってみたのだ。

駅前のロータリーは巨大だったが、その外に出てみると普通の雑然とした町だった。駅前にたくさんホテルが並んでいる。何軒か当たって宿を決めた。まだ朝7時を回ったころで寝ぼけ眼のスタッフは少し機嫌が悪かった。しかし部屋は綺麗でシャワーはお湯が出た。昨日の疲れを癒すようにホットシャワーを浴びると大層幸せな気分だった。ついでに洗濯もしてベッドに横になる。柔らかく寝心地もいい。そのまま2時間ほど寝た。

昼前になって起き、外出することにした。中心街まで遠いようでタクシーやリクシャーに声を掛けるが、どうも埒があかない。M.G Roadという名前を連呼するのだが、「M.G Roadのどこに行きたいんだ?」と聞かれ、こちらも地名などは分からないので相手にされなかった。仕方がないので歩くことにする。左足の痛みはずいぶん収まっていたのだが、それでもかなり遠い。途中で州議会の議事堂に出くわした。とても大きく立派だ。新聞やニュースではどうやら現職のマヤワティ首相率いる与党のBSPは苦戦が伝えられていて、野党にその座を明け渡しそうだとされていた。明日の開票結果公表を迎え、門は固く閉ざされ、人の出入りもなさそうだった。テレビのロケ車が何台か道路に横付けされて中継の準備リポーターが何かしゃべっている。

 

さらに歩き、結局1時間半ほどかかって市内の中心というか繁華街に来た。さすが州都だけあって街一番の目抜き通り、Mahatma Ghandi Road Margは「インドにしては」という条件は付くものの、ヨーロッパの街並みを真似たような通りで、洒落た佇まいのお店が立ち並んでいた。建物の外観と色を統一し、店の看板も全て黒地に白抜き文字と全体の統一が図られていて、インド的雑然さをできるだけ排除した街造りが為されていた。

 

著名なものは少ないようだが外国のブランド、本格的なパンやデザート、装飾品や靴、洋書など外国暮らしを経験したインド人のニーズを満たしそうなお店が並んでいる。歩き疲れてベンチで休んでいると、途端に物乞いに囲まれた。瀟洒な通りには物乞いも集まってくるのだ。

ガンジーロードマーグの風景
ガンジーロードマーグの風景

ぶらぶらと通りの店を冷やかし、少し細い路地に入るとコンピューターパーツの店が立ち並んでいたので、何軒かあたってUSBモデム用のSIMカードを購入した。実は2月初めにコルカタで購入した1ヶ月間有効の3G SIMカードの期限が切れ、リチャージしようとあちこちの店を尋ねて歩いたのだができなかったのだ。なぜだか分からない。新しいカードを購入しようにもBhopal以降に訪れた町では売ってもいなかった。ここでも何軒か断られたが、数軒目にようやく、いかにもおたくっぽい風貌の青年に「あるよ」と言われた。その彼もどこか近くの店から取り寄せて来たみたいだ。

今はインドでもさまざまな通信会社がUSBモデムと専用のSIMカードを販売しているようで、特に珍しくもないと思えるのだが、コルカタで購入したairtelのUSBモデムを見せると、彼のおたく魂を少し刺激したようで、仲間の店員に指示して他の店に3GのSIMカードを取り寄せたものを自分のノートPCに刺してちゃんとインターネットに接続できるのか試している。もう客のことより自分の興味を満たすのに夢中といった感じで、その姿を見ながら自分は思わず苦笑した。

初期費用は130Rs程度と、チャージするよりもむしろ安く、たいした売り上げでもないのに、結局1時間以上費やし、問題ないことを確認した彼は少し得意気だった。

夕方なのでそろそろ帰ろうと思い、歩いているとM.G.Road Margの交差点に大きな銅像が立っているのを見かけた。近寄ってみると、あのビームラーオ・アンベードカル博士だ。ははあ、博士を信奉するマヤワティ首相によるものなのだろう。Mahatoma Ghandiの名を取った大通りに睨みを利かせるように立つその姿はちょっとしたブラックジョークに思える。そのそばに小さな公園があってステージが組まれていた。観覧用の椅子が並び、ライトアップされている。マヤワティ女史の実物大のパネルがあったので、州政府与党BSPの集会だろうか。ひょっとしてマヤワティ女史がステージに登壇して何かシュプレヒコールでも飛ばすのだろうか、とわくわくして見守る。

しばらくしてステージが始まった。うーん、政党の集会ではなくてどうやら明日の選挙結果公表を控えての政治討論番組の中継のようだった。女史は登場しないらしい。インドのテレビ界のことはよく分からないが、知的でスマートな女性司会者がパネラーに意見を求めている。彼らは政治家なのかもしれない。

 

インド人は政治好きな国民だと思う。少なくとも日本人以上に政治には関心が強いように思う。それは受けた教育程度の如何に関わらずだ。国政のみならず村のパンチャヤット選挙でさえ、異様に盛り上がるのはそのせいだろう。日本ではこのテの番組はあまり広く視聴されないだろうが、インドという国にはこうした番組を支える土壌があるように思う。

 

何をしゃべっているのか全く分からないのですぐに飽きて、大通りで乗り合いのリクシャをつかまえ、駅前まで戻り、ホテルに帰った。

大通りの真ん中に立つアンベードカルの銅像
大通りの真ん中に立つアンベードカルの銅像
政治討論番組の会場設営中
政治討論番組の会場設営中