1/28 ●インド工科大学を見に行く

IITデリーの正門付近
IITデリーの正門付近

今日はIITデリーに行った。IIT(Indian Institute of Technology)は今や、アメリカをはじめとする世界の名立たるIT企業が注目し、学生のスカウトに奔走する、インド最高峰、世界でも屈指の大学教育機関だ。インドの子供はみなこの大学を目指す、というのは大袈裟だとしても、進学率が低いインドで、classⅨ,classⅩまで進学できた子どもはみな、この大学に憧れるそうだ。インド全土に15校ほどあり、今度ニューヨークからも開設を招致されているとニュースで紹介されていた。

最寄り駅のHAUZES KHAS駅を降りて出口を出ると学生らしき若者はみんなバスに乗り込む。躊躇して乗り遅れたので自分は歩くことにする。昨日グーグルマップで確認しておいた限りではそれほど遠くないようだ。15分ほど歩くと、キャンパスを取り囲む外壁らしきものが見えてくる。レンガを積み立てた壁にセメントを塗りつけてその上から赤茶色の塗料を雑に塗ったような感じだ。ラールキラーもこんな感じの色だったなあ、と思いながら近づくと小便くさいにおいがツーんと鼻を刺す。冬でこんなに匂うのだから、夏はもっとすごいのだろう。後ろを歩いていた初老の、いかにも大学勤めらしいインテリ然とした男性が、突然壁に近寄っていき、小便をし始めた。

壁に沿ってまたしばらく歩いていると正門らしきゲートが見えてきた。警備員の詰め所があり、警備員が立っている。少し躊躇していると、先ほどの初老男性が当たり前のように中に入っていく。警備員が出てきて、ゲートの前に駐車していた車をどかせるように一言二言言っている間に自分もすっと中に入った。するとまたもや10メートル先に警備員が数人椅子に座って出入りする車のチェックをして道路に張っている遮断棒を上げ下げしているのが見えた。仕方ないので意を決して中に入っていいか聞いてみる。自分は学生ではないんだが、と付け加えて。インドはテロ対策で主要な施設のあちこちで警備員が立ち、出入りする人の身体検査やかばんのX線検査をしている。あとで面倒なことになるくらいなら、予め自己申告しておいたほうがいいだろう。「どこへ行くのか」と聞いてくるので、「いや、ただ見て回るだけだ」と答えると、あっさりOKの返事が出た。少し物々しい雰囲気を感じたが、実際はそうでもないらしい。

きれいに整備されたキャンパス内
きれいに整備されたキャンパス内

予め調べておいたとおり、中は広い。歩いているだけでは到底どこからどこまでキャンパスなのかわからない。道に沿って街路樹が植えられている。丸く刈りそろえられた木と、栗の葉っぱに似た長細い鋸葉のある樫?の仲間と思しき木。脇には芝生が広がり、花が固まって植えられている。キンセンカ、マリーゴールド、サルビアなど、日本でもおなじみの花だ。インドでも栽培されているらしい。一応一回りしてみようかと、舗装された道が何本かに分かれているところで左に折れてみる。女子の寄宿舎の看板があったので、歩いているのは女子学生が多い。制服に身を包んだ小学生たちが運動場で遊んでいる。大学だけでなく、小学校や幼稚園などもあるらしい。子供を乗せたスクールバスが敷地内を走っているのを何度か見かけた。男の子はサッカーや、二手に分かれてのボール投げ、女の子も何か追いかけっこをして楽しそうだ。

キャンパス内の案内表示
キャンパス内の案内表示

しばらく歩くと外壁が見えてきた。敷地の端っこに来たらしい。郵便局まであるが、案内表示板にあったショッピングセンターは分からなかった。

 

外壁に沿って折れ曲がると、少しずつ様子が変わってくる。学生ではなく、大学敷地内のさまざまなメンテナンスを行っている人たちが作業してたり、休憩していたり、それらの人の住居らしきアパートメントがあちこちにある。そのうち、正門のある側とは反対の、大学敷地内としては裏側に当たるエリアを歩く。アパートメントも比較的綺麗なもの、古く朽ちかけているもの、さまざまだ。大学職員などの住居も含まれているのかもしれない。アパートメントのそばにはそれぞれちょっとした生垣に囲まれた庭がこしらえてあり、芝生が張られ、花が植えられたり植木鉢が置かれていたり、菜っ葉のようなものも育てられている。家事が一段楽したようなサリー姿の女性が、日向ぼっこをしている。敷地外の喧騒とは別世界で、車のクラクションも少なく平和そのものだ。

さらに歩いていると途中から道が舗装でなくなり、埃っぽいダート道に変わる。時々車が走り抜けるが、そのたびに巻き上げられる土煙で口や鼻を押さえなければならない。道の両側に生えている木も泥をかぶったように薄汚れている。真紅の、ちょっと毒々しい感じすらある野生のブーゲンビリアが、ほかの木につかまって花を咲かせているが、こちらも埃でくすんだような色になっている。

そのうち、施設内のすべてのごみが集められるのだろう、ごみの集積所に出くわした。一応、レンガの壁で入り口が設けられており、車の轍がどこまでかわからず続いている。轍の両脇にごみが集積している。プラスチックの袋もあれば、施設内の木を切った長い枝もある。遠くのほうで2、3人がごみに腰掛けているのが見えたが、あまりにも遠くて様子がよくわからない。それほど茫漠とした果てしなく広がる空間に思えた。そして驚くことに、近くには板張りの、今にも倒れそうな掘っ立て小屋の立ち並ぶエリアもあった。おそらく、敷地内のごみ掃除や建設現場などで働くダリットたちの居住区になっているのだろう。

こういった作られた学園都市とも呼べるところでも、こういった人たちはそれなりの処遇を受け、それに甘んじている。ここまで来る途中で、大きなミキサーに砂利やセメントを入れてコンクリートを作って運んでいる人たちがいたが、あの人たちもここに住んでいるのだろうか。

やがて右手に続く埃をかぶった鬱蒼と茂る木々の向こうが運動場になっていることに気がついた。延々と歩き続けていたが、実は運動場の周りを回っていたらしい。サッカー場にクリケットが何試合かできそうなフィールド、バスケットコートなど、端から端まで歩くのが嫌になるくらい広大な運動場だ。学生たちがクリケットに興じている。道具も本格的なのできっとクラブチームなのだろう。

大きな校舎と芝生の広がる広場
大きな校舎と芝生の広がる広場

徐々に元の正門の方向に向かいながら男子学生が目立つようになる。寄宿舎の方角を示す看板があちこちにある。看板の数から見て男子学生のほうが女子学生よりも圧倒的に多いようだ。やがてこの施設内に入って初めて見るような大きくて立派な建物がいくつか見えてきた。何のことはない、自分は校舎を避けるようにぐるっと一周してきたのだった。メインの校舎は、日本の大病院か、省庁の建物のように堂々とした佇まいだ。周辺にいくつかの建物があり、渡り廊下でつながっている。周辺で学生たちが談笑している。男子学生と女子学生が話しているのも見たが、恋人同士という雰囲気ではなく、友人同士の会話という感じだった。いかにも大学らしい雰囲気だ。学生たちの雰囲気は日本の大学生たちとあまり変わらない。まじめそうでジーパンに襟付きのシャツにセーターを着ているものもいれば、長袖Tシャツを着ていたり、日本で言うとちょっと冴えない部類の学生?のようで、後ろから見るとまったく変わらない。学内移動に欠かせないのか、自転車がずらっと並べられていた。

やがて先ほどの、女子の寄宿舎方向に折れ曲がった枝分かれ箇所まで戻ってきた。改めて見ると、大学の顔とも言える正門、校舎付近は綺麗に掃き清められており、植木も綺麗に刈り揃えられていることを実感する。バックヤードのメンテナンス分門の人たちが居住するエリアとは大違いだ。日本の大学でも、このくらいの広大な敷地を持つ大学がありそうだが、改めて土地だけは広いと痛感した。残念ながら学生たちが勉強しているところは見られなかったが、国が大きな予算を投じていることは実感した。

 

→動画クリップ・インド工科大学デリー校のキャンパスを歩く

 

IITデリーの正門前の切花屋さん
IITデリーの正門前の切花屋さん