warli painting の故郷を求めて


Jawharという山あいの小さな町のお寺の壁に描かれたwarli painting
Jawharという山あいの小さな町のお寺の壁に描かれたwarli painting

 

次の日は、宿に荷物を置いたままにして、バススタンドでバスを捕まえて、Nashikの街からさらに西へ行ってみた。

 

なぜ、今回自分はNashikに来たのか。それはワルリ・アート(Warli art)の故郷を訪ねてみたいと思ったからだった。少し前から、Warli artの魅力にひかれていた。もともとのきっかけについて考えてみると、数年前にマディヤ・プラデーシュ州のBhopal郊外にあるビームベトゥカBhimbetkaの巨岩群に残された古代の人々の壁画を見てからだった。おそらく当時この地に住んでいたと思われるadivasiの人々が描いたとされる、素朴で、何か野生の思考を窺わせる絵に、当時とても夢中になった。インドにバラモン教が発展し、体系化されつつ地元の人々に浸透していくもっと前の、どこか牧歌的で、楽天的で、素朴な彼らの世界観を映しているようだった。warli artはそうした岩の壁画からは少し時代が進んで、モチーフに積極的に彼らの生活のありようが取り入れられ、三角やまるといったとてもシンプルな形を用いて、人々の自然への思いや暮らし、世界に対する見方がもっと生き生きと表現されていた。しかしwarli artについてネットで調べて見たものの、それほどたくさん情報があるわけではなかった。ただ、どうやらこのNashikからインド西岸にかけて広がるマハラシュトラ州北部で一般的にAdivasiと呼ばれる古い部族たちの農村部で、お祭りなどの特別な時に家の壁に絵を描く習慣が昔からあったそうだ。それをのちにwarli artまたはwarli paintingと呼ぶようになったらしい。

 

今回の旅で、このマハラシュトラ州北部のwarli artを育んだ地域を旅してみようと思い、その玄関口としてNashikを選んだのだ。これからが本番だ。Nashikを出てどこかの田舎町を拠点にして、この地域をバスなどのローカルな交通手段を使って、街から街へ旅行しようと考えていた。しかしGoogle mapやネット検索をする限り、この地域の宿泊事情はあまりよくなさそうだった。あえて言えばNashikと州の西岸にある町ダハヌDahanuとの間に、ジャワール(Jawhar)という小さな町があり、Google map上にいくつか宿のマークがある。しかしそれ以上の情報はネットでいくら探しても、分からなかった。Nashikで宿泊している宿のマネージャーに聞いても、どうもはっきりしなかった。厳密に言えばここNashikからDahanuにかけて、車で旅するインド人観光客向けのリゾート施設らしきものが道路沿いに点在していたが、町から離れているような場所には泊まりたくなかった。

 

悩んだ末に、とりあえずNashikの宿に荷物を置いて、Jawaharまでバスに乗って下見に行ってみることにした。

 

翌日朝早く、宿を出て近くのバススタンドNimani bus depotに行き、そこから市内にある別のバススタンドNew CBS bus terminalに向かう。そこから郊外に向かう長距離バスが出ているらしい。そこで改めてJawhar行きのバスを探し、乗り込んだ。

 

バスは1時間もたたないうちに、有名なヒンドゥーのお寺で多くの巡礼客を集めるTrimbakに到着した。ここには多くの宿があった。そこからは、小さな村にいくつか立ち寄って2時間半ほどでJawharにたどり着いた。

 

Jawharは小さいながらも一応、町のような体を示していた。バススタンドの前にバザールがあり、まるでネパールかどこかの山間の町、といった雰囲気だった。午前中とあって買い物客が多く繰り出して活気を呈していた。バススタンドのすぐ横にできたばかりらしいホテルを見つけたが、とても立派で料金を尋ねたら、予想以上に高かった。さらに町をブラブラと散策する。

 

Jawharの町にあった先住民族Adivasiの人たちのための建物。コミュニティセンターみたいなもので、ホール(集会場)のような大きな施設だった。
Jawharの町にあった先住民族Adivasiの人たちのための建物。コミュニティセンターみたいなもので、ホール(集会場)のような大きな施設だった。

 

商店の並ぶ通りがいくつかあり、意外と大きな町だなと思った。しかし宿らしきものは見当たらない。何人かに聞いてみたものの、みなバススタンド横のあの新しいホテルを紹介してくれるだけだった。Google mapにはいくつかの宿が紹介されているのに、いずれもその場所にはなかった。または廃墟のようなビルだった。Google mapを妄信しているようなところが自分にはあったが、結構間違っていたりするんだな、と思い知らされた。

 

2時間くらい歩き回った。細かい通りも見て回ったが、宿はほかになさそうだったので、その日はバスに乗ってNashikに戻った。